#映画原作
#映画鑑賞
#読んでから見るか、見てから読むか。
「読んでから見るか、見てから読むか」。
小説や漫画を原作とした映画が数多くヒットを記録する現代において、あなたはどちらのタイプでしょうか。
鑑賞哲学や物語と出会う贅沢な時間について語ります。
CCO/クリエイティブディレクター/プロデューサー 上田 勝巳(うえだ かつみ)
ここ数年、大ヒットやロングランヒットを記録した邦画には、原作付き作品が数多くあります。
たとえば、吉田修一の『国宝』、雨穴の『変な家』、染井為人の『正体』など。小説や漫画を原作とした映画は、いまや日本映画界の大きな柱になっています。
映画を観るとき、あなたは原作を読んでから観る派でしょうか。それとも、まず映画を観て、そのあと原作を読む派でしょうか。この問いには、その人なりの作品の楽しみ方が表れます。
同じ物語でも、最初に何に触れるかによって、驚き方も、感情の揺れ方も、記憶への残り方も変わるからです。
1977年公開の角川映画『人間の証明』には、有名なキャッチフレーズがありました。
この言葉は今でも、原作付き作品を楽しむうえで本質的な問いを投げかけています。
小説、漫画、ドラマ、映画。
いまはひとつの物語がさまざまな形で展開される時代です。だからこそ、この問いは昔よりも身近なものになっているのかもしれません。
そして私は、はっきりと「見てから読む派」です。
理由はとても単純です。
先を知らないまま物語に出会いたいからです。
映画館でも配信でも、物語の行き先を知らないまま観る時間には独特の緊張感があります。
登場人物の一言に引っかかる。
場面の小さな違和感に反応する。
そして次の展開を自分なりに予想する。
その“手探り”の感覚こそが、私にとって映画の大きな魅力です。
原作を先に読んでしまうと、どうしても頭の中に完成したイメージができてしまいます。
登場人物の顔つき。
声の調子。
街の空気。
場面の温度。
読書の中で自分が作り上げた世界は、とても強いものです。
もちろん、原作と映画は別物です。
そんなことは頭では分かっています。
けれど分かっていても、心のどこかでこう思ってしまうことがあります。
「この人物、私の想像と少し違う」
「この場面、もっと長く描いてほしかった」
「ここは原作のあの空気感のほうが好きだった」
そうした雑念が入り込むと、映画そのものに集中しきれないことがあります。
一本の作品として受け止める前に、比較する目が先に立ってしまう。
だから私は、まず映画としてまっさらな気持ちで出会いたいのです。
「見てから読む」の良さは、原作が単なる補足では終わらないところにもあります。
映画を観たあとに原作を読むと、こんな楽しみが生まれます。
・原作にはこんなエピソードもあったのか
・もともとはこういう展開だったのか
・映画では省かれていた人物の感情が丁寧に描かれていた
・同じ物語なのに印象がこんなに違うのか
原作は“ネタバレ済みの素材”ではありません。
二度目の発見をくれる作品になるのです。
映画で受け取った印象を持ったまま原作を読むと、物語の奥行きがさらに広がります。
映画では一瞬で通り過ぎた場面が、原作では長く丁寧に描かれていたりする。
逆に、映画だからこそ成立した大胆な省略や演出に気づくこともあります。
この違いを味わう時間は、とても贅沢です。
同じ作品をもう一度楽しんでいるのに、見えてくる景色はまるで違う。
それは復習というより、別の登山道から同じ山を登る感覚に近いのかもしれません。
とはいえ、「知らない作品が好き」と言いながら、名作は何度も観ます。
少し矛盾しているようにも聞こえます。
でも実際には、この矛盾こそが映画鑑賞の面白さなのだと思います。
初見の映画には、展開を知らない面白さがあります。
一方で名作には、展開を知っているからこそ味わえる面白さがあります。
結末を知っているからこそ、最初のセリフが違って聞こえる。
犯人を知っているからこそ、あの視線の意味が分かる。
ラストを知っているからこそ、中盤の沈黙が切なく感じる。
一度目は「物語を追う時間」。
二度目からは「演出を味わう時間」。
俳優の表情。
カメラの置き方。
音楽の入り方。
伏線の置かれ方。
名作は観るたびに違う顔を見せてくれます。
ここで少し横道にそれます。
原作のある映画とオリジナル脚本の映画では、楽しみ方そのものが違うように思います。
私はどちらも好きです。
原作映画の魅力は、多くの人に愛された物語が映像としてどう生まれ変わるかにあります。
脚色。
再構成。
配役。
美術。
音楽。
原作の魅力をどう映画という器に移し替えるのか。その挑戦そのものが面白いのです。
一方、オリジナル映画には最初から最後まで先が見えない強さがあります。
誰も知らない物語が、その場で立ち上がっていく感覚。
そのスリルはやはり特別です。
だからこそ映画好きのあいだで、「原作かオリジナルか」という話題は尽きないのでしょう。
それは単なる好みではなく、「物語とどう出会いたいか」という鑑賞スタイルの違いなのだと思います。
映画の観方に正解はありません。
原作を読んでから観ることで、より深く楽しめる人もたくさんいます。
むしろ、そのほうが作品世界に入りやすいという人もいるでしょう。
私が映画を観るときに大切にしたいのは、素直に楽しめるかどうかです。
知識があることは豊かさです。
比較できることも、批評できることも、作品理解の深さにつながります。
けれど最初の出会いだけは、なるべく雑念の少ない状態で受け取りたい。
驚き、戸惑い、息をのむ瞬間を、そのまま味わいたいのです。
原作を先に読むと、その作品を深く理解できることがあります。
でも映画を先に観ると、まっさらな驚きに出会うことができます。
小説で味わう驚きを大切にしたい人もいるでしょう。
私は、映像で味わう驚きが好きです。
だから今日も、新しい映画を観るときは、できるだけ情報を入れすぎないようにしています。
あらすじも見すぎない。
評判も追いすぎない。
なるべく知らないまま、作品の入口に立つ。
そのほうが、スクリーンの向こうからやってくる物語と、きちんと出会える気がするからです。
あなたは「読んでから見る派」ですか。
それとも「見てから読む派」ですか。
お気に入りの作品を一つ思い浮かべながら、自分はどちらの楽しみ方に心が動くのか、ぜひ考えてみてください。
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