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#017_音と音のあいだにも、まだ世界がある
2026.07.07
#017_音と音のあいだにも、まだ世界がある

#フジロック

#微分音

#音響

私たちが当たり前に使っている「12音」の枠組み。その外側にある「微分音」の世界とは?2026年フジロック出演で話題のバンドの魅力から、子どもの耳をひらく音の楽しさまで、CEOの林が分かりやすく紐解きます

12音の不思議と、微分音ロックの入口

ピアノの鍵盤を見ると、ドから次のドまでのあいだに、白鍵と黒鍵を合わせて12個の音があります。ド、ド♯、レ、レ♯……と進んで、またドに戻る。私たちはこれを当たり前のように受け入れていますが、よく考えると不思議ではありませんか?
なぜ、1オクターブは12個に分けられているのでしょう?
10個でも、13個でも、24個でもよかったはずです。

1オクターブとは何か?

まず「1オクターブ」とは、音の高さ(振動数)が2倍になる関係のことです。
たとえば、ある音の波のきめ細かさ(振動数)が100だとすると、1オクターブ上の音は200になります。人間の耳には、この2つの音が不思議と「同じ仲間」に聞こえます。親子やきょうだい、あるいは「同じ名字の別人」のような、切っても切れない関係です。
では、そのあいだをどう分けるか?
ここで登場するのが、現在の西洋音楽で広く使われている**「12平均律(じゅうにへいきんりつ)」**です。これは、1オクターブを12個の半音に均等に分ける考え方です。ただし、ものさしで長さをまっすぐ12等分するのとは違います。音の高さは「比率」で感じるものなので、数学的には少し特殊な“均等割り”になります。

12音は、音楽のための便利な「地図」

なぜ「12」という数字が便利だったのでしょうか。
大きな理由は、「いろいろなキー(調)で演奏しやすく、ハモり(和音)もそれなりにきれいに響くから」です。
完全に自然のままの美しい響きだけを追いかけると、「あるキーでは美しくても、別のキーに変えた途端に音のズレが目立つ」という問題が起きてしまいます。そこで人間は、音を少しずつなじませて、どのキーでも使える実用的な地図を作りました。それが12平均律です。
つまり12音とは、自然そのものの音というより、「音楽をみんなで共有するために作った、よくできたお約束」なのです。
でも、お約束の外側にも音は存在します。ドとド♯のあいだにも、さらに細かい音が隠れているのです。これを「微分音(びぶんおん)」と呼びます。半音のさらに半分、あるいはもっと細かな音の隙間。世界の民族音楽や現代音楽では、この隙間の音が豊かに使われてきました。

「微分音ロック」という、心地いい耳のつまずき

ここで面白い例をご紹介します。
動画をきっかけに世界中で話題となっている、カナダ・ケベック州出身のデュオ「Angine de Poitrine(アンジーヌ・ド・ポワトリーヌ)」です。フランス語の名前なのが、ケベックのグループらしいところですね。
頭をすっぽり覆う大きなマスクにお面、白黒の水玉模様の衣装。メンバー構成はドラムと、ダブルネック(ネックが2本ある)の微分音ギター/ベースという、歌のないインストゥルメンタル(楽器演奏のみ)・バンドです。
見た目はかなり奇妙ですが、鳴っている音は冗談抜きでホンモノ、まさに音の強者です。2026年の「FUJI ROCK FESTIVAL」への出演も決まっています。
彼らのサウンドは、ロックをベースにさまざまな音楽が実験室でぐるぐる混ざり合ったような緊迫感があります。普通のギターでは出ない「半音と半音のあいだの音」がリフ(繰り返されるメロディ)に入り込んでくるのです。
すると、聴いている私たちの耳は一瞬「あれ?」とつまずきます。でも、その絶妙なズレが強烈なリズムと重なることで、不思議なグルーブ(ノリ)が生まれ、いつのまにか身体が動き出してしまいます。頭では「変だな」と思っているのに、身体はなぜか納得してしまう。そんな魔法のような体験です。

子どもの耳は、もっと自由に世界を聴いている

この話は、幼児教育にも通じるものがあると感じます。
子どもは、最初から「ドレミファソラシド」という正しい音階だけを聴いて育つわけではありません。
声を上げる、笑う、泣く、机などをドンドンと叩く、大人の音の高さを真似してみる。そうした日々の体験の中で、音の違いや響きの面白さ、音が返ってくる楽しさを覚えていきます。
音楽教育というと、つい「ドレミを正しく覚えること」と考えがちです。もちろんそれも大切ですが、その前段階にあるのは「音って面白い!」というピュアな感覚ではないでしょうか。
「正しい音」の外側にある、少し変な音、ゆらゆら揺れる音、思わず笑ってしまう音。それらもまた、子どもの耳をひらく素敵な入口になります。
12音は、音楽を整理するための便利な地図です。でも、音楽そのものは地図の上だけに収まるものではありません。
Angine de Poitrineの微分音ロックを聴くと、音と音のあいだに、まだ見たことのない小さな部屋(可能性といってもよいです)が隠れていることに気づかされます。そこには、音楽理論を知らなくても直感で楽しめる驚きがあります。音楽とは「正解の音を並べること」ではなく、「耳を使って世界を探検する遊び」なんだなと感じます。

オマケ:足元で奏でるもう一つのテクニック

今回のテーマからは少し余談になりますが、Angine de Poitrineは「ギターエフェクター(注1)」や「ルーパー(注2)」の使い方も超絶見事です。彼らの演奏を見ていると、楽器演奏というのは手、指や腕だけでなく、「足元の機器をどう操るか」も含めた総合的な表現なのだと痛感させられます。フレーズを奏でる超絶テクニックだけでなく、足元の華麗なステップ(=ペダル裁き)もまた、彼らの音楽に欠かせない見どころです。

(注1) ギターエフェクター:音色や響きをガラリと変化させる足元の機器。
(注2)ルーパー:演奏をその場で録音し、それをリピート再生させながら、さらに別の音をリアルタイムで重ねていける機器。

ご相談、お見積もり、お気軽にお問い合わせください。

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